認知症とは何か 中村重信・広島大学教授
認知症や物忘れは一般的な用語で、人によって色々な使い方がされる。物忘れは加齢に伴ってみられる生理的なある種の知能低下で、誰にでも起こり得ます。
一方、認知症というのは、ある特定の人だけに見られる病的な状態で、他人に迷惑をかける病気を指します。
いったん正常に発達した知的機能が成人になってから脳に起こる後天的な障害により、自分や他人の日常生活に支障をきたすようになることです。認知症と物忘れを混同することがあるので要注意です。
認知症の診断は、最近の出来事だけでなく、古い出来事を思い出すことができないといった
記憶障害を1つの要因としています。
もう1つの条件として①.失語 ②.失行 ③.失認 ④.抽象的な判断ができないこと、判断力が悪いことなどの高次脳機能が障害されていることの4項目の中から少なくとも1項目あるという条件が挙げられています。
これら知的機能の障害は仕事を続けていく上で支障があったり、日常生活や対人関係が上手くいかなくなる程度の困ったものをいいます。
この診断基準では、純粋に精神的な状態のみを対象としており、歩けないとか、話せないといった身体医学的な異常に関する問題は含まれていません。
さらに一人の人間を総合的に評価しようとする立場から、その人の社会への適応性を評価しています。
認知症という障害を持ちながらも、なんとか一生懸命生きようと努力している姿、あるいはそれができなくて困惑している姿を見ることがあります。
元来大脳は人を人間社会に適応させ人間らしく振舞わせる中心的な部分です。認知症老人では大脳は確かに傷害されますが、重大な障害を抱えながらも、社会に上手く適応できずに困惑している姿とも言えるでしょう。
この病気はこのような心の問題だけでなく、脳が損傷されている、例えば、脳が小さくなり萎縮しています。そこが認知症と統合失調症やうつ病など他の精神病と異なる点です。
認知症は目下、精神科医のみでは対応できない複雑な様相を呈しています。
なるほど、認知症の症状は記憶障害を中心とした精神症状ですが、認知症は身体的基礎疾患、うつ病、人格障害など精神科で扱う病気や症状と異なります。その為精神科診療のみからのアプローチでは困難で、他の領域からの診療も必要としています。
認知症の治療・予防に有効な薬物も開発・発売されていますが、
現段階では介護が中心となります。
また、原因がある程度把握され、有効な予防法も確立されている脳血管性認知症やその他の認知症患者に対してもやはり介護が重要な問題となります。
しかし、介護者自身が健康を害しているケースも多数上がり施設等への入居者も多くなってきています。認知症に対する有効な治療法の開発や上手なケアの仕方などを編み出すことがこれからの高齢化社会ではもっとも大切で、その為にも多くの方々の協力を必要としています。
基調講演より 中村重信・広島大学教授
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