認知症老人の生きる世界
認知症老人の生きる世界
〔国立精神・神経センター武蔵病院 相原和子)
遊びに来て新聞を読んでいた友人が「寝たきりになるのはいやだけど、呆けたら楽だろうね。この世の面倒なことを考えなくてすむから」と言い出しました。先日54歳の主婦が「義母は私の夫を自分の夫とまちがっているようで私に『あなた、だれ?不道徳だ、出て行け』と激しく怒るのです。夫は笑って聞き流しているばかりで、これでは呆けるが勝ち見たいです」と苛だちと怒りをあらわにして相談に来られました。
もちろん友人も、この主婦も本気で「呆けたら楽」「呆けるが勝ち」と思っているわけではないのでしょうが、よく耳にする言葉です。このように、親しい人や、近い親族にいわゆる「呆け症状」がでてきたとき、具体的対応策を求める前に、少しイメージしてみてください。
まず呆けた人々がどのような世界に生きておられるのか想像することから始めましょう。
このケースのお姑さんは、新しい家族に囲まれていても、子供を、家を、孫を、夫を、次第に認識できなくなっていらっしゃるのです。嫁は多くの場合、ご本人にとっては比較的早くから見知らぬ人になってしまいます。ご自分と他者との社会関係が理解できなくなっているからです。ここでは夫、息子、嫁の関係が混乱してしまい、『私はここにいるのに、周囲の人の名前もわからない、なんだか見知らぬ女性が家に入り込んでいて自分の”夫”と親しいようだ。”夫”もニコニコしている。これはいったいどういうこと?』という。自分の存在も家族関係も否定されたような実に
無気味な不安な世界に生きておられるのではないでしょうか。
決して言いたい放題、勝手なことを言っているわけではありません。何も考えなくなっているわけではありません。それどころか、
今まで様々な関係の認識が壊れてしまい、不安、・恐怖・緊張と絶望的なまでの実存的な孤独の世界に生きていらっしゃるのです。
それでも人は、絶望のなかでもかって自分がそうであったかのように生き続けていこうとします。
だから、多くの摩擦を生じてしまいます。
お姑さんの生きている世界が、イメージできたら、あなたもその世界で、寂しさ、悲しさ、不安感、、緊張感、『共に』感じてください。それはとても辛く、怖いことでしょう。そして「つらく、こわく感じたそのまま」を素直にご本人に伝えてあげてください。
その後は、お姑さんにとってここち良いと思われる具体意的な何かをしてさしあげましょう。たいていの場合肩をもむとか背中や足をさするなど、身体ケアがとても喜ばれます。なくなった物を一緒に探す事も良いことです。
恐ろしい孤独感のなかに生きておられるのでしょう。そのことを感じるとき、、ご本人を十分抱きしめてあげることが大切です。そしていたわりの言葉と優しい手による身体ケアを通して、心を交わらせていきましょう。
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