杉山ドクターの認知症を理解するための8大法則1原則

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2010年06月24日 08:00

認知症をよく理解するための8大法則1原則
                         (認知用の人と家族の会 副代表杉山孝博)



(b)全体記憶の障害




これは、「出来事の全体をごっそり忘れてしまう」ことを言います。私達の記憶力ははかないもので、細かいことはほとんど忘れてしまいますが、大きな出来事、重要と感じたことは記憶にとどめます。ところが、認知症が始まると自身が体験したできごと全体を忘れるようになります。





デイサービスから帰ってきた認知症の人に、家族が、「今日どこへ行って何をしてきたの」と尋ねても、「どこも行かないで一日中家にいた」とまじめな顔をして答えるのが普通です。デイサービスに参加したこと全体をきれいさっぱり忘れているからです。






また、食べた直後に「まだ食べていないから、早くごはんを用意して」「食事をさせないで殺すつもりか」という場合に、この法則が適用できます。認知症の人はある時期、異常な食欲を示すときがあります。一人分食べても空腹感が残っていて、しかも食べたことを忘れる(細かい献立の内容を忘れるだけではない)ため、前述の要求が出てくるわけです。「今食べたばかりでしょう。これ以上食べるとおなかをこわすからダメよ」という言い方はダメで、「いま、準備しているから少し待っていてね」「おなかがすいたのね。おにぎりがあるからこれを食べていてね」のように対応した方がうまくいきます。







(C)記憶の逆行性喪失



「記憶の逆行性喪失」とは蓄積されたこれまでの記憶が、現在から過去にさかのぼって失われていく現象をいいます。「その人にとって現在」は、最後に残った記憶の時点になります。この特徴を知っていると、認知症のおかれている世界を把握することができ、どのように対応すればよいかもわかってきます。





家族の顔すらわからなくなると、家族は戸惑ったり、嘆いたりしたあげく記憶を呼び戻そうと努力して、混乱に陥ります。しかし、認知症の人にとって妻は30歳代の若い女性であり、子供は小学生であるので、目の前の老婦人や成人した息子を家族と認めようとしません。





次のように考えるとよいでしょう。タイムマシンで数十年後の世界に送られた私たちの前に成長した子供がやってきて、あなたの子供ですよといわれても信じないように、認知症の人は現在の世界を認めようとしないのです。あくまで説得しようと試みる人間を、自分をペテンにかけようとする敵とみなす場合もあるのだということを・・・。






夕方になるとそわそわ落ち着かなくなり、荷物をまとめて家族に向かって「どうもお世話になりました。家に帰らせてもらいます」といって、丁寧に挨拶して出かけようとすることは認知症の人にしばしば見られます。夕暮れ時に決まっておきますから、“夕暮れ症候群”と呼ばれています。





30~40年前の世界に戻った本人にとって、昔の家と雰囲気が違う、現在住んでいる家は他人の家であり、夕方になれば自分の家に帰らなければならないという気持になるのだと考えれば、了解できるのではないでしょうか。そういう人に向かって「ここはあなたの家ですよ」と説得しても通じません。玄関にカギをかけて出さないようにしたりすると、「よその家に閉じ込められた」というとらえ方をして、大暴れをするのも無理もないことです。




大事なのはその状態の本人の気持を一旦受け入れて、「お茶を入れましたから飲んでいってください」「夕食をせっかく用意したので食べていってください」とか、「それでは途中までお送りしましょう」など、いろいろな対応の仕方を工夫できるでしょう。






また、精神科で幻覚、妄想、と呼ばれている症状も、認知症の人の体験や思考の、ある断面の世界であると考えれば、異常な世界でなくなります。性的異常行動もこの法則を理解しておくと、さほど異常とは思えなくなります。80~90歳の老人の行動ではなく、40~50歳の壮年の性的行動ととらえなおしてみたらどうでしょうか。





以上のように、「記憶の逆行性喪失」は、応用範囲が広く、認知症の人の気持や置かれている世界を理解するのに不可欠の特徴であるといえるでしょう。










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