医師の目・人の目認知症 第19.介護負担軽減へ“先手”
医師の目・人の目
「知ってますか?認知症 」パート19
公益法人認知症の人と家族の会・公益法人認知症の人と家族の会副代表
神奈川県支部代表・公益法人認知症グループホーム協会顧問
川崎幸(さいわい)病院 杉山孝博
共同通信社の配信で、下記の地方紙に平成21年4月以降1年間にわたって毎週連載されました。杉山先生の許可を得まして連載52回シリーズをお届けいたします。(高知、中国、埼玉、上毛、徳島、千葉、下野、佐賀、岐阜、新潟日報、山陰中央新報、山梨日日、宮崎日日、熊本日日中部経済、日本海、秋田魁新報、山形、愛媛、琉球などの新聞社から配信されました。
介護負担軽減へ“先手”
激しい症状でも数回で終わるなら、介護する人の混乱は少なくて済む。対応しても効果がなく、しかもいつまで続くか分からない場合には混乱と悩みが深くなる。認知症の人の「こだわりの法則」が重要になる。
カテゴリーの目次欄の認知症ケアのポイントに、この法則を載せてあります。
ここをクリックすると「こだわりの法則」を見ることができます。
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「こだわりの法則パート1」
「こだわりの法則パート2」
対応の仕方には「一手だけ先手を打つ」という方法もある。具体的には、症状を抑えることができなくても、症状からくる介護負担を軽くするため「手を打つ」ことだ。例えば失禁するようになると、介護の手間が飛躍的に高まる。畳の上で大便をされたら、後始末に非常に手間がかかるだけでなく、再び失敗されたらたまらないという精神的ストレスが高まる。
私は介護者に「タイミングを合わせてトイレに誘導することは介護の視点では良いことことですが、24時間一人で実行することは大変です。それでも失敗が起こることもあります。畳の上に水を通さない敷物を敷いたらどうでしょう。始末が楽になり、イライラが軽くなりますよ」と話している。
失禁という症状を押さえ込むことができなくても、後始末が簡単だと思えるだけで精神的ストレスが軽くなるものだ。認知症の人は、手についた大便をトイレの壁やタオルに塗りつけて汚すことがある。これはわざわざもてあそんでいるのでない。べっとりしたものが手に付くと、誰でも思わず手をぬぐってしまう。手に付いた便を、便だと理解できないまま、ぬぐっただけのことだ。
介護者にいじわるをするためにしているのでは決してない。しかっても効果はないし、「そんなことをした覚えがない」と否定されると、介護者の怒りが増すだけだ。トイレの壁に紙を貼っておき、汚されたらとりかえる、汚されてもよい布やペパータオルをかけておき、家族が使うタオルはべつに置いておくようにしたほうがよい。紙を張り替えたりする手間はかかるが、汚れた壁を雑巾で拭き取るよりも断然楽である。
郵便物をしまいこむという症状がある場合、大事な郵便物をなくされると大変だ。郵便が届く時間を見計らって大事な郵便物だけは取り出しておくとか、郵便受けを別の場所に設置して、そこに入れてもらうといった対策をとるのがよい。
先手を打つ方法は、症状を直接治すわけではないので、歯がゆく感じるかもしれない。ただ、一つの症状がいつまでも続くことはないので、最も現実的な対策の一つといえよう。
<ホーム長のつぶやき>
「こだわり」について
認知症の方は時々トイレの場所が分からなくなり居室の中で放尿や放便をすることがあります。2人3脚では気配り配慮をしてその人の排尿パターンを把握し誘導します。しかし手薄な夜間帯に自室のゴミ箱に放尿することがあります。当初、ゴミ箱がなければそこには排尿しないだろうと、一時片付けたことがありました。衛生面にも配慮してそうしたのですが、今ゴミ箱は居室に設置しています。
おしっこをゴミ箱に上手にはみ出すこともなく排尿します。どうやって排泄しているのか不思議です。ゴミ箱にビニールの袋を予め入れておき溜まったおしっこはそのままトイレに流し、後は袋を捨て、洗い、消毒しておけばいいわけです。ゴミ箱を片付けてしまったことで、床に放尿されたり濡れた衣類をタンスの中に隠されるよりは、尿意があったとき、気持ちよくゴミ箱に排泄してくれた方が本人にとって良いことだと思ったのです。本人の「こだわり」を最大限に容認しフォローする体制が必要だと思います。日中はスタッフの見守りによってトイレにお連れしています。それにしても器用にゴミ箱にされるのには驚きます。
排泄時に拭いたペーパーを流さず、わざわざゴミ箱に捨てる方がいます。注意してもそこには「こだわり」があるのですぐに忘れてしまい、また、同じ行動をします。そのようなときは、トイレに入った後ゴミ箱を覗けばいいわけです。そしてさり気なく片付け消毒します。「こだわり」をどのように受け止めコミュニケーションを図るか、そして利用者とスタッフの固いきずなをどのように気付いていくか、考えさせられます。
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