杉山ドクターのやさしい医学講座
第2章 高度な在宅医療と在宅ケア
(
認知症の人と家族の会 副代表 杉山孝博医師より)
1.高度医療と在宅ケア
最近歩いていると、小型の酸素ボンベから酸素を吸入しながら買い物や散歩している慢性呼吸不全の患者さんの姿を見かけることが少なくありません。また、在宅で人工呼吸器や24時間カテーテルをつけながら療養している人も多くなりました。酸素吸入、腹膜透析、中心静脈栄養、人工呼吸、抗癌剤や鎮痛剤の持続注入など、かっては入院しなければ受けられないと考えられていた治療法が、在宅で受けられるようになったのです。
本誌の読者が訪問介護や訪問入浴など在宅サービスを提供している利用者の中でも、、上記の在宅医療以外に、経菅栄養や胃瘻(いろう)、痰の吸入、膀胱留置カテーテル、導尿、気管切開など様々な医療的ケアを受けている人たちが少なくないと思われます。
このような高度な在宅医療が拡大している背景を考えますと、①.それぞれの治療法が患者・家族が実現を望んできた切実な治療法であったこと、②.ノーマライゼーションの考え方が社会的に浸透してきて、重度な障害をもっていても在宅生活を送ることが自然であると理解されてきたこと、③.酸素濃縮機や液体酸素吸入装置、小型の人工呼吸器など、安全性が高く、使いやすい機器や薬剤などが開発されたこと、④.訪問診療・訪問看護など在宅医療が充実するにしたがって、患者・家族の医療的不安が軽くなってきたこと、などの理由をあげることができるでしょう。
「治療は患者・家族と医療スタッフとの共同作業である」と考えて、私は、川崎幸病院で、血友病の自己注射治療(1977年から)、家庭透析(1978年から)、在宅酸素療法(1979年から)、CAPD(持続携行式腹膜透析、1982年から)、在宅人工呼吸療法(1986年)などの自己管理治療の試みを行ってきました。
医療機器を扱うことや中心静脈栄養法など専門家のみ認められている医療的ケアを患者や家族が行うことに不安を感じるかもしれませんが、どの人たちも見事に行ってきました。自分にとって必要な治療という認識と、いつでも相談でき援助を受けられる医療スタッフがいるという安心感があれば、誰でも素晴らしい介護者・治療者になれるものだと私は思っています。
どのような疾患、状態であっても、その人にとって望ましい療養生活が送れるような条件作りをすることが、医療や福祉の目的であり義務です。高度医療を受けながら、在宅療養を続けていく人たちは今後ますます増えていくと思います。筋萎縮性側索硬化症(ALS)の痰の吸引は例外として、現在のところ、ホームヘルパーが医療的ケアに関わることは行政的に認められていません。しかし、医療的ケアを受けている利用者に密接に接触するホームヘルパーや入浴サービス担当者が、医療的ケアに関する基本的な知識を持つことは非常に重要です。
注:次のような通達が厚生労働省から出されました。
2003.6.9「看護師によるALS患者の在宅療養支援に関する分析会」報告書(厚生労働省)
「家族以外のものによる痰の吸引の実施についても、一定の条件の下では、当面の処置として行うこともやむを得ないものと考えられる」
「今回の措置は、在宅ALS患者の療養環境の現状にかんがみ、当面やむを得ない処置として実施するものであって、ホームヘルパー用務として位置づけられるものではない。」と限定されているが、ホームヘルパーによる痰の吸引が、厚生労働省管轄の委員会で公式に言及されたことは注目すべきであろう。
2005.3.24通達[在宅におけるALS以外の療養患者・障害者に関する痰の吸引の取り扱いについて
「ALS患者に対する痰の吸引を容認する場合と同様の条件の下で、家族以外のものが痰の吸引を実施することは、当面やむを得ない措置として容認される」
2005.7月通産
爪きり、湿布の貼り付け、軟膏塗布、座薬の挿入、薬の内服の介助、浣腸、検温、血圧測定などが原則的に医療行為から外された。容態が安定し、医師の経過観察が不要な患者であれば、目薬の点眼や軟膏の塗布、あらかじめ分包されている薬の服用、鼻の穴から薬剤を吸入するネブライザーの介助も認められた。軽い切り傷や擦り傷、怪我などのガーゼ交換ができるようになった。
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