杉山ドクターのやさしい学講座
第2章 高度な在宅医療と在宅ケア
(
認知症の人と家族の会 副代表 杉山孝博医師より)
5.痰の吸引
慢性気管支炎、気管支拡張症などの呼吸器感染症、脳卒中の筋萎縮性側索硬化症などの神経や筋肉の障害、うっ血性心不全などの循環器疾患、がんをはじめ様々な疾患の終末期などでは、常に痰が出るようになります。自分で痰の喀出ができればよいのですが、全身の衰弱が進行して嚥下力・喀出力が低下してくると、喉に痰が絡むようになります。
痰は、気管支などに異物がある場合に、強い気流によって排出するための仕組みです。私は在宅の介護者に「咳き込むことができるうちは大丈夫です。咳き込むことやむせることもできなくなると吸引機が必要になる場合があります。軽い咳は薬で止めないほうが良いのです」と説明しています。
痰がたまったとき、口からださなければいけないと思っている介護者もいますが、痰を飲み込んでも胃で殺菌されますから、心配はいりません。喉に痰が絡んでいつまでも留まるようになると、①苦痛や不快の原因となる②肺の働きが低下する③衰弱の進んだ人にとっては、、窒息の原因となる。④食欲の低下⇒全身状態の悪化⇒痰の増加 という悪循環をつくる⑤痰が細胞の培地となって呼吸器感染症をさらに悪化させる などの問題が出てきます。
また、介護者にとっても、痰が絡んで苦しんでいるのに手をこまねいて見ているのは耐えられない気持ちにさせられます。川崎幸クリニックでは毎年40~50名を在宅で看取っていますが、在宅で痰の吸引ができるかどうかは、在宅看取りの重要な要因のひとつといってよいでしょう。訪問診療や訪問看護のとき、痰のからみで苦しんでいるのが分かれば、直ちに貸し出し用の吸引機を自宅に持っていき、介護者に吸引の指導をして、その日から、痰の吸引ができるようにしています。
どの介護者もはじめは不安で、カテーテルを喉の奥まで充分に挿入できないのですが、吸引することにより痰の絡みや、喘鳴が軽くなり、、苦痛が取れていくことを体験するうちに見事に吸引ができるようになります。
「痰をしっかり吸引していれば、抗生物質を使うのと同じ効果が得られます。発熱していても薬を使わないで、吸引だけでよくなった例がありますよ」「吸引の刺激でむせることがありますが、その方が肺の奥から痰が出てくるのでよいのです。吸引を止めないで続けてください。ご本人にとって苦しみは一時的で、最終的には呼吸が楽になります。「吸引カテーテルを充分深く入れてもかまいません。もし気管に入っても心配はありません」「粘膜を傷つけてカテーテルに血液がつくことが時々あるかもしれませんが、大きな出血につながることはありません」などと介護者に説明すると、介護者は安心して吸引を実行できます。
2003年6月9日の「看護師等によるALS患者の在宅療養支援に関する分科会」報告所
(厚生労働省)により在宅ALS(筋萎縮性側索硬化症)に対して、2005年3月24日の厚生労働省の通達により、在宅におけるALS以外の療養患者・障害者にたいして、「家族以外のものが痰の吸引を実施することは、当面やむを得ない措置として容認される」とされました。
しかし、現実的には、ヘルパーの知識、技術の問題、、事故に対する不安、医師・看護師などとの連携の難しさなどのため、ヘルパーによる痰の吸引は余り行なわれていないようです。吸引の必要な利用者に常に接するものが吸引できることが一日も早く円滑に実施できるようになってほしいと思っています。
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