杉山ドクターのやさしい医学講座

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2010年03月08日 14:49

第2章 高度な在宅医療と在宅ケア
                    (認知症の人と家族の会 副代表 杉山孝博医師より)

7.在宅人工呼吸療法

在宅人工呼吸療法は、長期にわたり持続的に人工呼吸法による補助呼吸が必要で、安定状態にある患者さんに対して自宅という生活の場所で人工呼吸器を使って行なう治療法です。



対象となる患者さんは、病状が安定して、在宅での人工呼吸療法を行なうことが適当と医師が認めたものです。ただし、睡眠時無呼吸症候郡の患者さんは対象となりません




疾患としては、①筋萎縮性側索硬化症、筋ジストロフィーなどの神経・筋疾患②肺気腫・気管支喘息などの慢性閉塞性肺疾患③肺結核後遺症などによる肺の高度な換気障害④脳卒中などによる中枢性換気障害⑤胸郭異常⑥呼吸筋麻痺を伴う頚椎損傷などをあげることが出来ます。



人工呼吸が絶対的に必要な患者さんにとって、故障や停電等による呼吸器の停止は死に直結します。命の綱である人工呼吸器は十分な知識と細心の注意をもって管理されなければなりませんので、かつては入院しないと利用できないと考えられていました。しかし、疾病が比較的安定しいるものの、今以上回復の見込みのない患者さんが、人工呼吸療法のために、何時までも入院して人工呼吸器に縛りつけられることは、身体的にも精神的にも残酷な状況といわざるをえません。




自宅という最も安らげる場所で、患者さん自身のもつ能力を発揮しながら生活を送ることが出来るならこれほど素晴らしいことはありません。バッテリーで作動する人工呼吸器を利用すれば外出することも可能です。世界的な天文学者で、筋萎縮性側索硬化症の患者で、ある英国のホーキング博士が、人工呼吸器を装着しながら、素晴らしい研究発表を行っていたことを知っている方もいると思います。



在宅人工呼吸療法の問題点としては、(1)安全性の確保の難しさ(2)呼吸器管理や痰の吸引などの介護負担が大きいこと(3)訪問診療や訪問看護など地域の在宅医療の充実度に地域差があること(4)デイサービス、ショートステイなどの在宅サービスが利用できないため家族の介護負担が24時間365日にわたることなどが考えられます。



特に安全性の確保については、病院にいれば医師や看護師など常時スタッフがいて、対応が出来、呼吸器が故障しても代替の呼吸器を使うことができます。在宅ではそのようにはいきません。介護者は、主治医、訪問看護師、病院、レンタル会社など緊急連絡網を整備して、、緊急時には手動式蘇生機(アンビュ・バッグ)を使って呼吸確保が行えるよう普段から訓練を怠らないことが必要とされます。



ヘルパーとして関わる場合、人工呼吸器(小型になった)と、患者さんの気管切開部の気管カニューレとを接続している呼吸回路が外れたら大変ですから、介護しているとき、呼吸回路に触れないように注意することが大切です。




在宅呼吸療法の介護でもっとも大変なことは、痰の吸引を頻回に行わなければならないことです。5分おき10分おきにしなければならないことも少なくありません。家族が24時間続けることは非常に負担になります。「痰の吸引」の項でも取り上げましたが、今後ホームヘルパーなどが痰の吸引も可能になることが在宅人工呼吸療法の普及にとって非常に重要であると思っています。もちろんそのためには、法律上行政上の制限、研修、資格化、指導者なども問題が解決されなければなりませんが、1日も早く実現されることを私は望んでいます。










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